Read the English version published on June 8, 2022.
この分析は、ブルームバーグ・インテリジェンスのシニア産業アナリスト Will Haresと Grant Sporreが執筆し、ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。
ロシアによるウクライナ侵攻によって、地政学的リスクと供給途絶の可能性が高まり、物流問題が生じる一方で、ロシアは西側諸国の経済制裁を受けて商業的にますます孤立し、コモディティー市場で広くボラティリティーが高まっています。BIのコモディティー・チームは今後起こりうる3つの地政学的な道筋とその結果を検討しました。状況が「緩和する」、「長引く」、「エスカレートする」のそれぞれの想定に基づき、向こう12カ月間のエネルギー、金属、農産物の主要銘柄の価格シナリオを評価しました。
コモディティー価格のシナリオ分析概要
出所：ブルームバーグ・インテリジェンス
ブレント原油価格、ロシアの地政学的シナリオ次第で大きく変動
向こう12カ月間のブレント原油平均価格についてBIが予想する3つのシナリオは、状況緩和ならば90ドル、足元の状況が長引けば120ドル、エスカレートすれば160ドルとなっており、ロシアのウクライナ侵攻が、状況によって大きく異なる地政学的な結果につながる可能性を示しています。分析では、それぞれのシナリオ下における北大西洋条約機構（NATO）加盟国による対ロシア経済制裁を巡る対応と、ロシアの原油輸出途絶の程度の違いも考慮されています。
緩和シナリオ：状況が急速に鎮静化すればブレント価格は90ドルへ
BIの緩和シナリオ（ベア・シナリオ）における今年のブレント価格予想は、近い将来に紛争の停戦合意と沈静化という外交的な解決が実現し、ロシア軍がウクライナから完全撤退することを想定したものです。そうなれば西側諸国はロシアの原油輸出に対する制裁を解除し、原油供給は危機前の状況まで正常化するでしょう。このシナリオでは、ブレント原油価格は侵攻前の水準だった1バレル＝90ドル近くまで戻るとBIでは予想しています。ただしこれは、逼迫（ひっぱく）した現物市場、低い在庫水準、石油輸出国機構（OPEC）と非OPEC主要産油国で構成する「OPECプラス」諸国による余剰生産能力の減少、世界の原油需要増といった要因も考慮した予想です。
ロシアは軍事攻勢を強めており、当面、和平協定が実現して侵略前の状況に戻るとは考えにくく、BIのシナリオの中では緩和シナリオは最も確率が低いとみられます。
ブレント原油価格コンセンサス予想
{CPFC <GO>}
出所：ブルームバーグ・インテリジェンス
長期化シナリオ：経済制裁が現状維持ならブレント原油価格は120ドル
BIの基本シナリオは、状況が長期化してブレント原油価格が120ドルになるという予想です。これは、ロシアのウクライナ侵攻後の紛争が長引き、一部の西側諸国（米国と英国）によるロシアの原油輸出に対する制裁が続く結果、原油供給が途絶することを想定しています。このシナリオでは、ロシア産原油に大きく依存しているドイツや東欧諸国はロシア産原油の輸出を禁止しないとBIでは予想しています。また、商社や海運業者、銀行などが規制リスクと風評リスクの高まりを考慮して、または倫理的な理由からも、明示的な経済制裁ではなくても「自主制裁」を続ける可能性も想定しています。
BIでは現状分析を踏まえ、この長期化シナリオの実現可能性が最も高いとみていますが、この場合、原油価格の地政学的リスクプレミアムが続く見通しとなります。
BIの原油需給モデル
出所：ブルームバーグ・インテリジェンス
悪化シナリオ：ロシアの孤立化が進み、ブレント原油価格は160ドルに
BIの悪化シナリオでは、ブレント原油価格は1バレル＝160ドルまで上昇すると予想されます。このシナリオでは、ウクライナ戦争が悪化し、市民への無差別攻撃が拡大するか、NATOとの直接的な紛争に発展して、NATO同盟国がロシアへの圧力を最大化するために踏み込んだ経済制裁を発動することを想定しています。その結果、ロシア産エネルギー輸出に直接的な経済制裁が課され（ロシアからエネルギーを輸入している西欧以外の国も制裁に参加する可能性があります）、ロシアの孤立化が進み、日量500万バレルのロシア産原油および石油製品の大半が市場から取り除かれることになるでしょう。これは世界の原油需要の5%に相当します。
ただし、足元の地政学的状況は前例を見ないもので、ロシアによるウクライナ侵攻の今後の展開と、それに伴うエネルギー供給途絶を巡る見通しが非常に不透明であることから、原油価格がBIの悪化シナリオ以上に高騰する可能性があることも否めません。
ブレント原油価格フォワードカーブ
出所：ブルームバーグ・インテリジェンス
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。