日本企業のガバナンス改善へ-コード、投資家期待で投資妙味高まるか

本稿は、ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアナリスト本間 靖健および北浦岳志が執筆し、ブルームバーグターミナルに掲載されたものです。【ブルームバーグターミナル用リンク】(02/04/22)

日本企業の独立取締役や女性取締役比率は欧米と比較して低いものの、コーポレートガバナンスコードや議決権行使助言会社、投資家の方針によって改善に向かっています。一方で単に原則を満たすのではなく不正の防止や企業価値の増大等、実効性のあるガバナンス体制の構築が求められています。また投資家は、自社株買いに加えて企業価値増大を意図したESGへの取り組みにも期待しています。これらを背景に今後、自己株取得や持ち合い株の解消も進むことで、日本への投資妙味が高まる可能性があるでしょう。

独立取締役増加と多様性へのプレッシャー、投資要件満たすか注目

日本企業の取締役構成では独立性も多様性も欧米と比較して見劣りがするものの、改善傾向にあります。東証1部上場企業では、5年前には3割に満たなかった独立取締役比率が平均約4割となり、同比率が3分の1を超える企業数は7割程度あります。昨年改訂されたコーポレートガバナンスコードは同比率の3分の1を求めており海外大手機関投資家やISS、グラスルイスといった議決権行使助言会社も基準が設けられています。今後も同比率の引き上げが求められるでしょう。

女性取締役比率は、東証1部上場企業の平均が5年前は5%以下でしたが、直近は1割程度と、少しずつ改善に向かっています。多様性に関しては、ISSが2023年より議決権行使基準として設けると発表しています。またコーポレートガバナンスコードで女性や外国人、中途採用等、社内の多様性に関する項目が追加されたため、今後上場基準や投資基準、エンゲージメントの主要項目となる可能性があり、その進展のスピードに注目が集まるでしょう。

ガバナンス指標の国際比較

Source: Bloomberg Intelligence

ガバナンス要件充足だけでなく実効性がカギ

2022年は、日本企業のガバナンス体制について実効性が問われる年となりそうです。昨年、投資家にとって不安材料となる品質不正等のイベントが複数企業で発生しましたが、それらの企業でも、指名委員会等設置会社で執行と監督・監査が分離され、独立取締役比率はコーポレートガバナンスコードの原則4-8を満たしているなど、表面上ガバナンスに問題がなかったケースもありました。また、ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の分析では、独立取締役比率がコードに示された3分の1を下回る一部企業において同比率が上がると、ESG開示スコアも上がる傾向がありましたが、3分の1を超える企業ではその傾向はみられませんでした。全体的に企業が形式や原則を満たすことを目的化しており、ネガティブなイベントを未然に防いだり、企業価値増加への取り組みを行ったりといった、より積極的なESGへの取り組みを十分追及しきれていないことを示唆しているものと思われます。コードや原則が当たり前となり、一歩進んだ実効性のあるガバナンスの取り組みが期待されます。

指名委員会等設置会社/独立取締役・開示スコア散布図

Source: Bloomberg Intelligence

自社株買い、売り出し、株式持ち合い解消に向けた具体的な計画の提出

4月にスタートする東証プライム市場を選択した1841社のうち、上場維持基準を満たしていない会社は、296社に上ります。コーポレートガバナンスコードの原則も適用されますが、同コードが求めている「コンプライ・オア・エクスプレイン」も適用され、独立取締役比率が3分の1に満たない会社でも説明があれば上場に問題はない仕組みです。一方で、流通株式時価総額に適合していない会社数は217社、流通株式比率の基準を満たしていない会社は36社、売買代金の基準については84社あり、経過措置の会社は上場維持基準の適合に向けた計画書の提出と開示を行う必要があります。既に自己株式の取得と処分を行うことを発表している会社や、売り出しや持ち合い株の解消を表明している会社もあります。

特に持ち合い株の解消はISSやグラスルイスも正式に議決権行使基準として表明しているため、プライム市場上場維持と相まって、解消が進むことになるでしょう。

経過措置企業

Source: 東証「新市場区分の選択結果について」

投資家の資本政策、ESGインテグレーションへの関心は高い

投資家によるエンゲージメントによって自社株買いが促進されている傾向が見られます。20年と21年に投資家から会社側に意見を表明した約100件のうち、それぞれ15%と13%が自社株買いなど資本政策に関するもので、経営者交代や経営戦略、事業再編、取締役就任に関してよりも多くなっています。今後も、日本企業の資本還元政策に対する投資家の関心は高いとBIは分析します。

一方で、21年には20年に見られなかったものとして環境関連、取締役の独立性、多様性、資本コストの開示、株式連動報酬の導入に関しても意見表明が出されており、投資家の関心がESG(環境・社会・企業統治)に及んできたことが示されています。中には企業価値増大に資するストーリーの中で提案されているものがります。長期的視点で、ESGに関連した指摘が投資家から強まる可能性があり、今後、コードや基準を満たすためのESG対応ではなく、企業価値と紐づけた取り組みが求められるでしょう。

投資家意見表明項目/ESG関連

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