ESGデータのブラックボックスを開く

Read the English version published July 23, 2021.

ブルームバーグのサステナブル・ファイナンス・ソリューション部門でグローバルヘッドを務めるPatricia Torresとエンタープライズ・データ・コンテンツ部門でグローバルヘッドを務めるBrad Fosterが、透明性の高いESG(環境・社会・ガバナンス)データに対する投資家のニーズにどのように対応しているか、また、このデータを入手する上でどのような課題があるかを説明します。

ESGデータを投資判断に利用する世界の運用会社の資産残高は、8年間で3倍以上に増加し、2020年には38兆ドル近くに達しました。こうした数字は、透明性と質の高いESGデータに対して、この業界にいかに強いニーズがあるかを明確に示しています。実際、ブルームバーグの見解では、お客さまは外部機関によるスコアにあまり頼らずに、自らスコアを算出することを重視するようになっており、生のESGデータの需要が一段と高まっています。

この需要に応えるため、ブルームバーグは100カ国以上にわたる約1万2000社の企業と41万銘柄以上の有価証券について、企業が報告した15年分以上のESGデータを提供しています。さらに、銀行、投資家、企業が、運用資産、資本配分、貸し出し、および持続可能性に関する情報や業績の報告をより正確に評価できるように、炭素排出量の推定値、スコア、分析、指数、リサーチ、ニュースの提供も行っています。

ESGデータを収集する際の主な課題は、情報開示と標準化が不十分なことです。このデータの報告は義務付けられておらず、国際財務報告基準(IFRS)やグローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)のような、企業がESGデータを開示するための共通の枠組みもありません。そのため、体系化されていないデータの標準化と解釈にリソースを費やす必要があります。こうしたデータは少なく、不完全で、最新ではないこともあり、標準化のプロセスには時間とコストがかかります。

こうした課題に対処し、透明性を確保するために、ブルームバーグでは、企業の各種報告書、年次株主総会の結果、持続可能性関連のプレスリリース、経営方針に関する文書やウェブサイトなど、一般に公開されているあらゆる文書からESGデータを取得しています。また、規制によって実現していく標準化に対応したコンテンツを確実に用意するために、ESG規制の専門家チームを設置しています。

さらにESGアナリストのグローバルチームが多層的な品質管理を行い、一貫性のない企業報告を整理、標準化し、最高水準に引き上げています。ブルームバーグのESG企業データは、環境・社会面の業績の全体像を示すために、当該企業の全事業の80%以上をカバーしています。この企業報告データは完全に透明なものであり、データを掘り下げて調べようとするユーザーは元の文書を読むことができます。ブルームバーグが透明性の課題の解決に貢献している例として、温室効果ガス排出量の推定が挙げられます。さまざまな企業関連データで構成される巨大なデータベースとモデル化の専門知識を活用して、ブルームバーグでは、排出量を報告していない企業について、その推定値を算定しています。

ESGデータの課題

ブルームバーグは10年以上前にESGデータの提供を開始しました。今では全世界で約1万8000社に上る企業が、ブルームバーグを通じて入手したデータを気候変動リスクの評価、投資アイデアの創出、持続可能性レポートの作成などに利用しています。ブルームバーグのESGデータは、バイサイド・セルサイド双方の金融機関、一般企業、政府機関の投資専門家に利用されています。

例えば、バイサイドのお客さまは、ESGデータを投資手法に組み込むことで、リスク管理、持続可能性が重視される世界で成功を収める上で有利な立場にある企業の見極め、ESGに関する規制上の報告要件の遵守などをより効果的に行う方法を追求しています。同様に、ブルームバーグのESGデータはセルサイドのお客さまの分析にも徐々に組み込まれており、持続可能性がもたらすリスクと機会に関するアナリストの知見を広げるため、あるいは規制当局の報告要件を満たするために利用されています。また、金融機関は、特定のテーマに沿った債券引受など、進化しつつある引受業務にESGデータを組み込んでいます。

ESGデータをめぐってお客さまが直面する主な課題には、質の高いデータの不足、テクノロジースタックにESGを組み込むことの難しさ、新しい規制要件への対応、強力で「正直な」指標の活用などがあります。具体的な例としては、同じセクターの企業であっても、報告されるデータポイントが異なることが挙げられます。同様に、同じ企業でも年によって報告するデータポイントが異なる場合があります。ESGデータに一貫した報告基準がないことは、サステナブル投資の普及を妨げる大きな障壁であり、お客さまが進化するESG規制の報告要件を満たすことを困難にしています。

ブルームバーグは、「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)を通じた非財­務情報開示方法の開発と標準化、欧州委員会の「サステナブルファイナンス・プラットフォーム」(PSF)および英国の「グリーン技術諮問グループ」(GTAG)への参加、独自のESGデータや分析サービスの開発といった手段により、これらの課題の解決に向けた業界の取り組みに積極的に関与しています。こうした変化に対応し続けるために、ブルームバーグは、企業の情報開示と透明性の向上、年次報告書でのESGデータの開示、効率性向上に向けた機械での読み取り可能なデータの活用を期待しています。

規制への対応と報告要件

欧州の規制の一つに、「サステナブルファイナンス開示規則」(SFDR)があります。これは、金融市場参加者が長期的に持続可能な方法で成長資金を調達できるようにすること、ならびに環境配慮をしているように装う「グリーンウォッシング」を防止することを目的としています。SFDRがもたらす主な課題の一つは、「主な負の影響」(Principle Adverse Impact:PAI)指標の年次開示です。PAI指標はESGの問題を対象としており、多くの企業が現在、有意義なデータを開示していない多くの分野を含んでいるため、企業はESGに関連する膨大なデータを新たに用意する必要があります。

ブルームバーグは、企業のコンプライアンスを支援するために、SFDRのPAIデータセットをESGデータにマッピングしています。このESGデータは、企業の報告システムやリスク管理システムに利用できます。また、ブルームバーグの分析ツールを通じて、ポートフォリオの報告や投資ガイドラインのモニタリングに利用することもできます。

もう一つの重要な規制は、環境的に持続可能な経済活動を分類する枠組みである「EUタクソノミー」です。ブルームバーグのデータとツールは、「タクソノミー・レポート」に記載された5段階のプロセスに準拠したソリューションにより、企業のコンプライアンスニーズに応えるものです。

SFDRのような規制が導入され、EUタクソノミーによって情報開示や報告の義務が拡大したことで、今後は新たなタイプのデータが必要となり、特に世界的に標準化が推進される中、ESGは投資のワークフローにおいてますます不可欠な要素となるでしょう。

ESGデータの開示を促進

投資家もデータ提供社も、ESGへの取り組みが単にチェックマークを入れる作業ではなく、長期にわたる持続的成長を可能にし、競争優位をもたらすものであることを明確にするために、企業に働きかける必要があります。ここ数年、投資家が投資判断に当たって、ESGの要素や問題にこれまでよりはるかに強い関心を持つようになっています。そのため企業にとっては、大きな変化を生み出す姿勢を示すために、ESGに関する指標を説明し、そのデータを適切に開示することが避けられません。

ブルームバーグはかねてより、企業の持続可能性に関する情報開示の質と利便性を高めるべきだと主張しています。ブルームバーグ ターミナルを通じてエンタープライズ・データ・フィードとして入手できるESGデータには、報告されたままのデータが含まれます。また、投資家に全体像を示すために、当該企業の業務の80%以上をカバーしています。

­ブルームバーグ男女平等指数(GEI)のようなプロダクトでは、データを適切に開示している企業は、男女平等と透明性に対する自社の取り組みをアピールすることや、国際的に認められた情報開示基準に従って報告を改善すること、ならびに包括的なGEIスコアカードで方針や業績を他社と比較することができます。それにより、こうした企業が男女平等を推進できる一方、投資家サイドは、GEIを参照することで、各社が提供したデータを確認して投資判断を下すことができます。

投資家にインパクトを与える

ブルームバーグは、投資家に最大のインパクトを与えるために、サステナブル・ファイナンス・ソリューションというエコシステムを提供しています。これは、投資家と企業が資産内容や、急速に発展している分野である持続可能性に関する情報や業績の報告を適切に評価できるように、データ、スコア、分析、指数、リサーチ、ニュースなどを組み込んだものです。この堅牢なソリューションでは、ESG投資やポートフォリオの最適化だけでなく、企業戦略やリスク管理などに対するあらゆるアプローチを強化できます。

従来、ESGは「ブラックボックス」と考えられてきましたが、ブルームバーグでは、透明性、一貫性、企業の情報開示を優先しています。ブルームバーグを通じて、投資家は関心のある企業のESGスコアだけでなく、そのスコアの元になるデータや算出手法を参照できます。ブルームバーグが独自に開発したスコアには、情報開示を促進し、優れたパフォーマンスに報いるという2つの大きな目的があります。さらに投資家は、ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)とブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のリサーチを閲覧できます。BNEFとBIは、投資アイデアの創出促進、業種別の重要なESG問題の特定、投資戦略の決定に役立つ情報の提供を目的に、ESGデータから得た実用的な知見を伴うリサーチや分析を提供しています。

将来のイノベーション

ブルームバーグはお客さまのニーズを満たすため、常にイノベーションを起こし、進化しています。業界が進化を続け、新たなトレンドが生まれていく中、今後もお客さまのために新たなデータフィールドやスコアを開発してまいります。

企業が市場の全体像を把握できるように、ブルームバーグでは独自のスコアやデータに加え、第三者のさまざまなスコアやデータを提供しています。第三者のESGスコアには、MSCI、サステナリティクス、ISS、ロベコSAMといった主要な評価会社のプロダクトが含まれます。これにより、投資家は幅広いデータの選択肢が得られるため、最も適切で有用なデータにアクセスできます。

ブルームバーグは先頃、米国の労働力の人種的・民族的多様性に関するデータの透明性を高めるために、一般公開されている米国のEEO-1レポート(企業が雇用機会均等委員会に提出する年次報告書)の収集と公開を開始しました。このデータは、ブルームバーグ ターミナルで公開しています。ブルームバーグでは、(性別、人種・民族などの)多様性に関する情報開示の強化に取り組むだけでなく、気候変動リスクにとって特に重要な情報である資産レベルのデータの拡充に向けたイノベーションも続けています。また、炭素削減目標など、将来­に関するデータの取り扱いも増やしています。

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