トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車の電動化戦略

本稿は、ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のシニア・アナリスト吉田達生および北浦岳志が執筆し、ブルームバーグターミナルに掲載されたものです。(06/09/21)

日系自動車大手の電動化戦略:現実的なトヨタとあるべき姿のホンダ

自動車大手3社の電動化戦略が出揃いましたが、そのロードマップは各社各様です。ホンダは2050年のカーボンニュートラルを大前提に40年には販売のすべてがバッテリー式電気自動車(BEV)・燃料電池車(FCEV)であるべきとするのに対して、トヨタ自動車はBEVとFCEVに以前よりは注⼒するものの、すべてをそれらにするのではなく、各国規制やインフラ整備や顧客の嗜好といった市場特性に配慮してハイブリッド⾞(HEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)も含めた柔軟な電動化を志向しています。日産自動車は、長期的にはBEVが主流になるとしているものの、当面は独自のシリーズハイブリッド「e−POWER」が主役とみられます。

トヨタ、電動車の販売を加速、中でもEVとFCEVには一段と注力

トヨタ自動車は5月12日の決算発表時に、カーボンニュートラルに向けて電動車への取り組みを加速すること、中でもバッテリー式電気自動車(BEV)と燃料電池車(FCEV)の比率を、各国規制や市場特性を考慮しながら高めていくことを明らかにしました。決算に先立つ4月19日には、25年までに専用プラットフォームを用いる7車種を含む、BEV15車種を全世界に導入することを発表していました。中国、欧州、および米カリフォルニア州規制適用地域ではBEVの導入を急ぐ必要がありますが、BEVには電池コスト、航続距離、充電インフラ、中古車価格など諸課題が残ります。損失の少ない高効率なパワー半導体はBEVの電費改善につながることから、航続距離の延長や搭載する電池量の適正化によるコスト低減のために、トヨタはじめ自動車各社は採用を拡大するとみられます。

トヨタは電動車の販売台数を、20年の196万台(内BEVとFCEV合計約5000台)から、30年には800万台に引き上げ、その内200万台をBEVとFCEVとする計画です。なお、地域ごとの電動車比率の見通しは、規制や再生可能エネルギーの普及に応じて、下表の通り各様となっています。

Source: Company, Bloomberg Intelligence

ESG特集 2021 Vol.1: 脱炭素社会へ向けて加速する産業界
リポートを読む

ホンダ、EVとFCEVへの集中を目指すハードルの高い電動化計画

ホンダは4月23日に新任の三部敏宏社長が2050年のカーボンニュートラルに向けた車両の電動化計画を発表しました。同社の計画は、北米と中国の二大市場で30年までに、販売する新車の40%をBEVまたはFCEVとし、35年にはその比率を80%に引き上げ、最終目標の40年には世界で販売する新車をすべてBEVまたはFCEVにするという非常に意欲的なものです。日本でも24年には軽自動車のBEV投入を計画するなど積極姿勢を示しています。ただし、日本はハイブリッド車(HEV)志向が強いことから、30年時点に目指す100%電動化では、HEV+PHEV:BEV+FCEVは80:20となっています。しかし、35年には20:80と主従が逆転し、40年には全数をBEV+FCEVにする計画としています。

脱炭素化へのホンダとトヨタのアプローチは、電動化という総論では共通ですが、地域ごとの取り組みという各論では差異が際立ちます。ホンダはBEVとFCEVに集中していくのに対して、トヨタはBEVとFCEVに従来よりは注力するものの、販売のすべてをそれらにするのではなく、各国規制や市場特性に配慮してHEVとPHEVも含めた柔軟な電動化を志向しています。

Source: Company, MarkLines, Bloomberg Intelligence

日産、e−POWERとBEVを柱に30年代早期に主要市場で電動化

日産自動車は1月27日に、2050年にカーボンニュートラルを実現する目標を発表、その取り組みの一環として電動車両の販売を加速する方針を明らかにしました。具体的には、30年代の早期に主要市場である日本、中国、米国、欧州に投入する新型車をすべて電動車両とする計画です。同社の電動化は、HEVとBEVが2本柱となるもので、トヨタやホンダがPHEVやFCEVも合わせて注力するのとは差異があります。同社のHEVは、同社が「e−POWER」と呼ぶ発電専用のガソリンエンジンで発電した電力でモーターを駆動するシリーズハイブリッド車です。これまでは、B・Cセグメント向けとして、相対的にサイズが小さく軽量な商品が投入されてきたが、電動化をさらに進めるうえではこれまでより重量がある車両にも適用できるシステムが必要になるでしょう。

同社は長期的な電動化のシナリオとして、HEVに対してBEVが主流になると想定をしていますが、HEVとBEVがバランスするのは30年ごろで、25年の段階では「e−POWER」の方が多いという見方をしています。

Source: Company, MarkLines, Bloomberg Intelligence

ブルームバーグ・インテリジェンスによる詳しい分析は、ブルームバーグターミナルにてご覧いただけます。アナリストへのご質問および無料デモのご要望はこちらから。

デモ申し込み