温暖化ガス排出量「実質ゼロ」目標に不可欠な基準の確立

Read the English version published on December 17, 2020.

この分析はブルームバーグNEFによるもので、ブルームバーグ・ターミナルに最初に掲載されました。

エグゼクティブサマリー

多くの企業が続々と温暖化ガス排出量「実質ゼロ」目標を打ち出しています。世界最大手の企業の多くは、競合他社に先手を打とうとして温暖化ガスの100%削減か、あるいはオフセット(クレジットの購入や排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動による排出量の全部または一部の埋め合わせ)をすると誓っています。欧州の石油メジャーだけでも、スペインが2050年までの目標とする2億6500万トンの削減量に相当する排出ガスを1年間で削減しなくてはなりません。しかし、あらゆる企業が実質ゼロ目標を掲げる現在の状況は米国開拓時代の無法地帯のようなもので、規制もなければ、目標の質も企業によって大きく異なります。目標値の信頼性と正当性を高めるには現在開発中の基準を確立することが不可欠でしょう。本リポートは、各企業が実質ゼロ目標を分析・設定するためのガイドとなるものです。

数値目標

779CO2:2050年までに実質ゼロを目指す大手公益事業9社における、スコープ1と2の排出ガス削減量の平均(推定値)。

213CO2換算トン:炭素排出量実質ゼロを目指す企業連合、「Transform to Net Zero」の設立メンバーによるスコープ1、2、3の排出ガス削減量(推定値)。

149CO2換算トン:実質ゼロ目標達成のため排出ガス除去に焦点を当てた使用が許可される炭素クレジット量(推定値)。

実質ゼロ目標の目標達成年度までの年数、1年当たりの絶対ベース排出量削減と残りの排出量削減

注:チャートはスコープ1と2の排出量削減を示す。ただしハイテク企業とダノン、ユニリーバはスコープ3も含む。

  • 1つとして同じ実質ゼロ目標はありません。目標年度、対象とするGHG排出量や排出ガスはそれぞれの企業によって異なる上、多くの企業が、異なる形式で目標を設定したり、あるいは「実質ゼロ目標」の別の表現として、「カーボンニュートラル」や「ゼロカーボン」、「クライメートポジティブ」など、さまざまな用語を使用したりしているため、利害関係者が各社の目標を比較するのは容易ではありません。
  • そこで、実質ゼロ目標を標準化するためのイニシアチブが導入され始めています。中でも最も注目されるのが、「STB(科学的根拠に基づく目標)イニシアチブ」に基づいて開発された枠組みで、実質ゼロ目標を達成するための一般的な方法に関するガイダンスを提供しています。また、マイクロソフトとアマゾンも先頭に立って新たなイニシアチブを推進しています。しかし、大半の企業が現在掲げている実質ゼロ目標はこれらイニシアチブの基準を満たしません。
  • 今のところ、ハイテク企業の実質ゼロ目標が最も画期的で、これら企業は大半の企業より20年ほど早い2030年をめどに、スコープ1、2、3の排出ガス削減を目標としています。また、実質ゼロとするだけにとどまらない企業もあり、マイクロソフトは2030年までにカーボンネガティブになることを、グーグルは2030年までに全面的にクリーンエネルギーに切り替えることを目標としています。
  • 公益事業と石油・ガス企業は、事業活動に伴うスコープ1と2の排出ガスに焦点を絞る傾向があり、公益事業の場合、それはクリーンエネルギーへの移行を意味します。石油・ガス会社も再生可能エネルギーを追求し、油田やガス田から出る余剰ガスを焼却処分する「フレアリング」の削減に目標を絞っています。両セクターとも、二酸化炭素回収に投資する必要があるとみられます。
  • 炭素クレジットは実質ゼロ目標達成に向けて重要な役割を果たしますが、論議を呼ぶことになるでしょう。イニシアチブでは、原則として、炭素を除去または隔離する炭素クレジットのみが認められます。発電や、熱効率の良いクリーンな料理用コンロの導入などのオフセットによる炭素クレジットは認められません。

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